
つらいつわりで、仕事に行くべきか休むべきか、判断に迷っていませんか。つわりは「気の持ちよう」ではなく医学的な身体反応ですが、周りに迷惑をかけたくないという気持ちから、無理をしてしまう方も少なくありません。
この記事では、医師が示す客観的な休業基準から、職場へ角を立てずに伝える方法、そしていざという時に活用できる4つの公的制度までを詳しく解説します。具体的な例文や手続きの流れも紹介するため、すぐに役立てられます。
ご自身の状況と照らし合わせることで、罪悪感を抱くことなく、自分と赤ちゃんを守るための具体的な次の一歩が明確になります。安心して休養や働き方の調整をするための、正しい知識を身につけましょう。
「これって休むべき?」医師が示す客観的な基準
つわりで仕事を休むべきか判断に迷うときは、ご自身のつらさに加え、これから示す客観的な基準を参考にしてください。
つわりは「気の持ちよう」で乗り切れるものではなく、ホルモンバランスの急激な変化によって引き起こされる、医学的な身体反応です。
ここで挙げる基準は、医師が休業を要すると判断し、診断書や「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」を作成する際の根拠にもなるものです。ご自身の状態と照らし合わせ、無理なく適切な対応をとるための判断材料としてください。

吐き気・嘔吐の回数と程度
1日に何度も嘔吐を繰り返す、または吐き気がひどく仕事にならない状態は、体が休息を求めている明確なサインといえます。
回数もさることながら、症状の「程度」が業務にどれだけ影響しているかが、休むべきかを判断するうえで重要なポイントです。
【業務への支障となる具体例】
- 1日に5回以上など、頻繁に嘔吐する
- 常に吐き気があり、デスクワークや立ち仕事に集中できない
- 会議中や電話対応中に、急な吐き気に襲われる
- 職場の特定の匂い(食堂、給湯室、香水など)で気分が悪くなる
このような状態を我慢すると、脱水や栄養状態の悪化を招き、回復が遅れる原因にもなり得ます。医師に相談し、勤務時間の短縮や休暇の取得を検討すべき段階です。
食事や水分がほとんど摂れない状態
食事はもちろん、水分すら口にできない、あるいは飲んですぐに吐いてしまう状態は、脱水症状を引き起こすため、速やかな受診と休養が必要です。
特に、水分が全く摂れない状態は母体と胎児の双方にとって危険が伴います。
【脱水症状のセルフチェックリスト】
- 水やお茶を飲んだだけで吐いてしまう
- 1日の尿の回数が極端に少ない、または色が濃い
- めまいや立ちくらみが頻繁に起こる
- 唇がカサカサに乾いている
これらのサインが一つでも当てはまるなら、「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という治療が必要な状態かもしれません。
妊娠悪阻は、つわりが悪化した病的な状態です。仕事に行くことよりもご自身の体を守ることを最優先し、すぐに産婦人科を受診してください。点滴による水分・栄養補給が必要となる場合もあります。
妊娠前の体重から5%以上減少した
妊娠前の体重から5%以上減少している場合、重度のつわりである「妊娠悪阻」と診断される医学的な基準に該当し、直ちに治療と休養が求められます。
これは「気持ちの問題」ではなく、客観的な数値で示される明確な治療対象です。
【体重5%減少の目安】
| 妊娠前の体重 | 5%減少の目安(この体重減で要注意) |
|---|---|
| 50kg | -2.5kg (体重47.5kg以下) |
| 55kg | -2.75kg (体重52.25kg以下) |
| 60kg | -3.0kg (体重57.0kg以下) |
このレベルの体重減少は、体が飢餓状態に陥っていることを意味します。
体内の脂肪や筋肉を分解してエネルギーを作り出すようになり、その過程で「ケトン体」という物質が血液中に増加します。このケトン体は吐き気やだるさをさらに悪化させるため、入院による集中的な治療が必要になるケースも少なくありません。
眠気・だるさ・頭痛で日常生活に支障が出ている
吐き気や嘔吐が比較的軽くても、耐えがたい眠気や倦怠感、頭痛によって仕事のパフォーマンスが著しく落ちる場合も、休養が必要なサインです。
これらは、妊娠を維持するために働くホルモンの影響で起こる、つわりの代表的な症状と考えられています。
【業務への支障となる具体例】
- 会議中に意識が朦朧とするほどの眠気に襲われる
- パソコンの画面を見続けるのがつらい頭痛が続く
- 体が鉛のように重く、通勤だけで体力を使い果たしてしまう
- 集中力が続かず、普段はしないようなケアレスミスが増えた
- 車の運転や機械の操作など、危険を伴う業務に強い不安を感じる
無理に出勤しても本来のパフォーマンスを発揮できず、かえって周囲に心配をかけてしまうこともあります。安全に業務を遂行できない状態は、ご自身だけでなく職場にとってもリスクです。早めに上司に相談し、休憩や休暇を取得しましょう。
職場への伝え方とタイミング【例文付き】
つわりで仕事を休む際、どう伝えれば角が立たずに理解してもらえるか、悩む方は少なくありません。
伝え方ひとつで、職場からの協力の得やすさは大きく変わります。安心して休養に専念するためにも、報告の順番と状況に応じた伝え方のポイントを、具体的な例文とともに押さえておきましょう。
報告する相手と順番(直属の上司→人事部→同僚)
職場への報告は、まず直属の上司に伝え、その後の指示を仰ぐのが鉄則です。この順番を守ることが、スムーズな連携と不要な混乱を避けるためのカギとなります。
| 報告の順番 | 相手 | なぜ、その順番なのか? |
|---|---|---|
| 1番目 | 直属の上司 | ・業務の割り振りや人員配置の最終責任者だから ・あなたの状況を最も正確に把握し、指示を出す立場だから |
| 2番目 | 人事部・労務担当者 | ・上司の指示を受けてから連絡する ・時短勤務や休職など、制度利用の専門家だから |
| 3番目 | 同僚 | ・上司と相談し、伝える範囲や内容を決めてから共有する ・業務に直接関わるメンバーに、必要な情報のみを伝える |
良かれと思って先に同僚へ相談した結果、話が違う形で上司の耳に入り、こじれてしまうケースも見受けられます。まずは指揮命令系統のトップである直属の上司へ、直接伝えることを心がけてください。
妊娠報告と同時に伝える場合の例文
妊娠がわかった初期の段階で、つわりの症状が出始めたら、早めに報告するのも一手です。職場側も心の準備や体制を検討する時間ができ、あなた自身も今後の業務調整をお願いしやすくなります。
「まだ安定期前なのに…」と不安に思うかもしれませんが、先に共有しておくことで、急な体調不良で休むことになっても「そういう事情なら仕方ない」と周囲が理解しやすくなるメリットがあります。
【口頭で伝える場合】
(上司の名前)さん、今少しよろしいでしょうか。
私事で恐縮ですが、このたび妊娠が判明しました。現在、つわりの症状があり、日によって体調に波があります。
今後、ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、まずはご報告と、今後の働き方についてご相談させていただきたく、お時間をいただきました。
【メールで伝える場合】
件名:今後の働き方に関するご相談(あなたの氏名)
(上司の名前)部長
お疲れ様です。〇〇です。 私事で大変恐縮ですが、ご報告がありご連絡いたしました。
このたび、妊娠していることがわかりました。 現在は妊娠初期でして、つわりの症状があり、体調が不安定な日もございます。
つきましては、今後の業務についてご相談させていただきたく、別途お時間をいただけますでしょうか。
取り急ぎご報告までとは存じますが、引き続き業務には真摯に取り組んでまいります。何卒よろしくお願い申し上げます。
【伝えるときのポイント】 過度に卑下せず、安全に働くための前向きな「相談」であることを伝えましょう。「通勤時のラッシュを避けるための時差出勤は可能か」など、具体的な相談事項を考えておくと話がスムーズに進みます。
症状がつらくなってから伝える場合の例文
自分では大丈夫だと思っていても、つわりの症状が急に悪化し、業務に支障が出てしまうこともあります。
その際は、現在の深刻な状況と、できれば「医師の指示」という客観的な事実をセットで伝えることが重要です。「わがまま」や「甘え」ではなく、安全配慮義務の観点から会社が対応すべき「医学的な要請」であることを明確にしましょう。
【口頭で伝える場合】
(上司の名前)さん、急なご相談で申し訳ありません。
実は妊娠しておりまして、現在つわりが重く、正直なところ業務を続けるのが難しい状況です。
先日、医師からも「休養が必要」との指示を受け、母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)をいただきましたので、ご相談させていただけますでしょうか。
【メールで伝える場合】
件名:【緊急】体調不良による今後の勤務に関するご相談(あなたの氏名)
(上司の名前)部長
お疲れ様です。〇〇です。 急なご連絡となり、大変申し訳ございません。
実は現在妊娠中なのですが、つわりの症状が悪化しており、本日もめまいと吐き気が続いております。 このままの状態で安全に業務を続けることが困難だと感じております。
先日、医師の診察を受けたところ、休養が必要との診断を受けました。(医師に記入していただいた母性健康管理指導事項連絡カードを別途提出いたします。)
つきましては、大変恐縮ですが、本日の早退と、今後の勤務について至急ご相談させていただけますでしょうか。 ご迷惑をおかけし大変申し訳ございませんが、何卒よろしくお願い申し上げます。
【伝えるときのポイント】 診断書や「母健連絡カード」は、あなたの状態を客観的に証明し、会社に適切な措置を講じてもらうための強力なツールです。口頭での説明に加えて、これらの書類を速やかに提出することで、話が円滑に進みやすくなります。
引き継ぎを円滑に進めるための準備リスト
いつ体調が悪化して休むことになっても慌てないように、日頃から「誰が見てもわかる」状態に業務を整理しておくことが、何よりの備えになります。
これは、同僚のためであると同時に、「私が休んだら職場が回らないかも…」というあなた自身の罪悪感を軽くするためのお守りにもなります。完璧を目指す必要はありません。6割程度の完成度でも、あるとないとでは大違いです。
以下のリストを参考に、できることから手をつけてみましょう。
| 準備しておくこと | なぜ必要か?(目的) |
|---|---|
| 担当業務の洗い出し | 自分が担当する全業務をリスト化し、「名もなき仕事」の引き継ぎ漏れを防ぐため |
| 簡易マニュアルの作成 | 「あの人にしかわからない仕事」をなくし、誰でも代理で対応できる体制をつくるため(箇条書きメモでOK) |
| 関係者リストの共有 | 急な問い合わせの際に、代理の人が「誰に聞けばいいか」で迷わないようにするため |
| 関連データの整理 | 「あのデータどこ?」という無駄な捜索時間をなくし、スムーズな業務代行を可能にするため(共有サーバーが望ましい) |
| 進行中案件の進捗管理 | 「今どこまで進み、次に何をすべきか」を一覧化し、代理の人が安心して引き継げるようにするため |
つわりで休む時に使える4つの制度
つわりで仕事が困難なとき、働く妊婦さんを守るための公的な制度が4つあります。
これらの制度は、体調に応じて休みを取得したり、働き方を調整したりするために設けられています。すぐに使える有給休暇から、長期の休みに備える傷病手当金まで、状況に応じた選択肢が存在します。
それぞれの特徴を正しく理解し、ご自身の状態に合わせて使い分けることが、心身の負担と経済的な不安を和らげるカギとなります。

1. 有給休暇
有給休暇は、つわりによる体調不良の際に、理由を問わず利用できる最も手軽な選択肢です。
これは労働基準法で定められた労働者の権利であり、取得の申し出を会社は原則として拒否できません。診断書も不要なため、急な吐き気やだるさで当日休みたくなった場合にも活用できます。
会社によっては半日や時間単位での取得も可能です。
【時間単位・半日単位での活用例】
- 吐き気が強い午前中だけ休み、午後から出社する
- 通勤ラッシュを避けるため、1時間遅く出社(1時間分の有給休暇を取得)する
有給休暇中は給与が支払われるため、収入面の心配がない点も大きなメリットです。
ただし、使える日数には限りがあります。今後の検診や産後の手続き、子どもの急な体調不良などに備えて有給休暇を温存したい場合は、次に紹介する他の制度と組み合わせて利用することを検討しましょう。
2. 母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)
母性健康管理指導事項連絡カード(通称:母健連絡カード)は、医師による指導内容を職場に正確に伝え、必要な配慮を法的な根拠をもって求めるための公的な書類です。
これは診断書と同等の効力を持ち、妊娠中の女性労働者を守るための強力なツールといえます。
医師が「通勤緩和が必要」「休憩時間の確保が必要」「休業が必要」などと判断した場合、このカードに指導内容を記入してもらえます。
このカードを会社に提出すると、会社側(事業主)は記載された内容に基づいた措置(時短勤務や休業など)を講じる義務が発生します。法律で定められているため、「休むのは甘えではないか」といった罪悪感を持つ必要はありません。「医学的に必要な措置」として、気兼ねなく会社に配慮を求められます。
3. 傷病手当金
傷病手当金は、つわりが悪化して「重症妊娠悪阻」と診断されるなど、長期間仕事を休まざるを得ない場合に、収入の一部を保障する制度です。
ご自身が加入している健康保険(協会けんぽ、健康保険組合など)から、給与のおおよそ3分の2が支給され、長期休業中の経済的な不安を和らげます。
傷病手当金を受け取るには、以下の4つの条件をすべて満たす必要があります。
- 業務外の病気やケガの療養であること (つわりや重症妊娠悪阻も対象です)
- 仕事に就けない状態であること (医師の証明が必要です)
- 連続する3日間(待機期間)を含み、4日以上仕事を休んでいること (給与の有無は問わず、4日目から支給対象となります)
- 休業した期間について、給与の支払いがないこと (有給休暇を取得した日は対象外です)
有給休暇を使い切ってしまった場合や、入院などで長期的な休養が必要になった場合に、生活を支える心強い制度です。ただし、国民健康保険の加入者(自営業やフリーランスなど)は原則として対象外となるためご注意ください。
4. 男女雇用機会均等法に基づく措置
男女雇用機会均等法は、妊娠中・出産後の女性労働者が、医師から受けた指導を守りながら健康に働けるよう、会社が必要な措置を講じることを義務付けた法律です。
先に解説した「母健連絡カード」の効力は、この法律によって担保されています。
母健連絡カードなどを通じて医師からの指導があった場合、会社は指導内容に沿った対応をとらなければなりません。
【会社が講じるべき措置の具体例】
- 通勤緩和: 時差出勤、勤務時間の短縮など
- 休憩に関する措置: 休憩時間の延長、休憩回数の増加など
- 症状に対応する措置: 負担の大きい作業の制限、休業(欠勤)など
もし会社が「忙しいから」といった理由で適切な対応を拒否した場合、それは不当な扱い(マタニティハラスメント)にあたる可能性があります。
つらい症状を我慢する必要はありません。これは法律で守られたあなたの権利です。ご自身の体と赤ちゃんを守るため、会社に必要な配慮をはっきりと求めましょう。
制度利用の手続きと必要書類の集め方
つわりで休むために制度を利用する場合、「母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)」と「傷病手当金」が主な選択肢となります。
これらの制度をスムーズに活用するには、それぞれの手続きの流れと必要な書類を事前に把握しておくことが欠かせません。
いざという時に慌てず、会社とのやり取りを円滑に進めるためにも、これから解説する具体的な手順を頭に入れておきましょう。
母健連絡カードの入手から会社への提出までの流れ
母健連絡カードは、医師による「休養や勤務緩和が必要」という診断を、法的な効力を持つ形で会社に伝えるための公的な書類です。
このカードを提出することで、会社は法律に基づいた対応(時短勤務や休業など)をとる義務が生じます。
手続きの具体的なステップは、以下のとおりです。
産婦人科で現状を具体的に相談する まずは、かかりつけの産婦人科医に相談します。その際、「どのような症状で、仕事のどの部分にどう影響が出ているか」を具体的に伝えることが重要です。 事前に「つわり日記」や体調のメモをつけておくと、ご自身の状態を客観的に、かつ正確に説明しやすくなります。
医師にカードを記入してもらう あなたの状態から休業や勤務時間の短縮などが必要だと医師が判断した場合、カードに指導内容を記入してくれます。 カードの様式は母子健康手帳に付属していることが多いですが、もし見当たらなければ厚生労働省のホームページからもダウンロードして持参できます。
記入済みのカードを会社に提出する 医師に記入してもらったカードを、直属の上司や人事担当者に提出し、具体的な措置を申し出ます。
このカードが提出された場合、会社は男女雇用機会均等法に基づき、記載された医師の指導を守る義務があります。そのため、あなたは「休むのは申し訳ない」と気兼ねすることなく、医学的に必要な措置を正々堂々と求められます。
傷病手当金の申請条件と手続き方法
傷病手当金は、つわりが悪化して「重症妊娠悪阻」と診断されるなど、長期間仕事を休まざるを得なくなった場合に、収入の一部を保障してくれる制度です。
ご自身が加入している健康保険から、給与のおおよそ3分の2が支給されるため、長期休業中の経済的な不安を和らげられます。
ただし、傷病手当金を受け取るには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
| 項目 | 主な支給条件 |
|---|---|
| 対象者 | 会社の健康保険に加入している被保険者本人であること ※自営業者などが加入する国民健康保険は原則対象外です |
| 理由 | 業務外の病気やケガ(「重症妊娠悪阻」など)の療養のためであること |
| 状態 | 仕事に就くことができない状態であると医師に証明されていること |
| 期間 | 連続する3日間(待機期間)を含み、4日以上仕事を休んでいること ※有給休暇や公休日を含めてOK。4日目から支給対象となります。 |
| 給与 | 休んでいる期間、会社から給与が支払われていないこと ※有給休暇を取得した日や、給与の一部が支払われた場合は対象外、または減額調整されます。 |
手続きは、一般的に以下の流れで進めます。
申請書の入手 まずは会社の人事・総務担当者に相談し、「傷病手当金支給申請書」をもらいます。
本人記入欄の作成 申請書には「本人記入欄」「医師の記入欄」「会社の記入欄」があります。最初に、ご自身で必要事項を記入してください。
医師による証明 次に、かかりつけの産婦人科を受診し、医師に療養が必要であったことの証明を記入してもらいます。
会社による証明と提出 最後に、会社に休業期間や給与支払いの有無などを記入してもらい、あなたが加入している健康保険組合や協会けんぽに提出します(通常は会社経由で提出します)。
傷病手当金は、申請してから実際に支給されるまでにある程度の時間がかかります。長期休業の可能性がある場合は、早めに会社に相談し、手続きの準備を始めましょう。
休む以外の選択肢と会社への交渉術
「仕事を完全に休むのは気が引けるけれど、今まで通り働くのはつらい…」
つわりで体調が不安定なとき、多くの妊婦さんがこのようなジレンマを抱えます。しかし、「休む」か「無理して働く」かの二択ではありません。働き方を調整し、体への負担を減らしながら仕事を続けるという「第三の選択肢」があります。
その選択肢を実現するための鍵が、会社への「交渉術」です。
男女雇用機会均等法により、会社は妊娠中の従業員に対して必要な配慮を講じる義務があります。とはいえ、一方的に権利を主張するだけでは、職場の人間関係がこじれてしまう可能性も否定できません。
交渉を成功させるコツは、次の2つの柱を意識することです。
- 客観的な根拠を示す: 医師の診断という「客観的な事実」を伝える。
- 前向きな姿勢を見せる: 会社側の負担を考慮し、「どうすれば働き続けられるか」という具体的な代替案を提案する。
この2つをセットで伝えることで、「わがまま」ではなく「安全に働き続けるための前向きな相談」として、会社もあなたの状況を受け入れやすくなります。
時短勤務への変更
時短勤務は、体力を温存しながら仕事を続けるための、最も現実的な選択肢の一つです。
つわりの症状は1日の中でも波があることが多いため、最もつらい時間帯を避けて働くことで、心身の負担を大幅に軽減できます。
【勤務時間調整の具体例】
- 朝の吐き気が強い場合 → 始業時間を遅らせる(時差出勤)
- 夕方に疲労感がたまる場合 → 終業時間を早める
会社に相談する際は、ただ「時短にしてください」とお願いするのではなく、交渉をスムーズに進めるための準備が重要です。
| 交渉のポイント | 具体的なアクション |
|---|---|
| 1. 症状の見える化 | ・「つわり日記」などを活用する ・「午前10時頃に吐き気がピークになる」「16時を過ぎるとめまいがする」など、症状が出る時間帯と内容を具体的に伝える |
| 2. 具体的な提案 | ・「〇時〜〇時の勤務に調整いただけないでしょうか」と、希望する勤務時間を明確に提示する |
| 3. 最終的な切り札 | ・医師に母性健康管理指導事項連絡カード(母健連絡カード)を記入してもらい、提出する ・「医師の指導」という客観的な根拠を示すことで、会社は法律に基づき対応する義務が生じる |
母健連絡カードは、あなたの申し出が「個人的な要望」ではなく「医学的に必要な措置」であることを証明する強力なツールです。これを提出することで、会社側も安心して勤務調整に応じやすくなります。
在宅勤務(テレワーク)への切り替え
在宅勤務(テレワーク)は、つわりの大きな要因である通勤の負担を根本から解消できる、非常に有効な対策です。
満員電車での移動や乗り物酔いを避けられるだけでなく、ご自身の体調に合わせて休憩したり、横になったりできるため、心身ともに余裕を持って業務に取り組めます。
もともと会社に在宅勤務の制度があれば利用しやすいですが、制度がない場合でも諦める必要はありません。
重要なのは、上司や会社側が抱くであろう「本当に家で仕事ができるのか?」という懸念を、あなたからの提案で払拭することです。
【在宅勤務を交渉するときの提案例】
- 業務の進め方:「チャットツールでこまめに進捗を報告し、常に連絡が取れる状態を保ちます」
- 会議への参加:「Web会議システムを使えば、定例ミーティングにも問題なく参加できます」
- 成果の報告:「毎日の終業時に、その日の業務内容をまとめた日報を提出します」
このように、在宅でも生産性を落とさずに貢献できる具体的な方法をセットで提案することで、会社側も前向きに検討しやすくなります。
もちろん、この場合も母健連絡カードが大きな後押しとなります。医師に「通勤緩和」の指導を記載してもらうことで、「在宅勤務への切り替えが医学的に望ましい」という強力な交渉材料になるのです。
身体的負担の少ない業務への変更
現在の業務内容そのものが、つわりの症状を悪化させる引き金になっている場合は、身体的負担の少ない業務への変更を申し出ることも法律で認められた権利です。
ご自身の状況に合わせて、どのような業務なら続けられそうか、具体的な代替案を考えてみましょう。
| 現在の負担が大きい業務 | 変更後の業務(提案例) |
|---|---|
| 長時間の立ち仕事(接客など) | 座ってできる事務作業(データ入力、電話応対など) |
| 重い物を持つ作業(品出しなど) | 軽作業(検品、在庫管理など) |
| 強いにおいを伴う業務(飲食店など) | バックヤードでの発注業務やシフト管理 |
| 外回りの営業 | 社内での資料作成やメール対応 |
会社に相談する際、最も大切なのは「『できません』ではなく『これならできます』と伝える」姿勢です。
単に「今の仕事はつらいです」と訴えるだけでは、会社側もどう対応してよいか困ってしまいます。「〇〇の業務であれば、体調に影響なく会社に貢献できます」と代替案を具体的に示すことで、あなたの働く意欲が伝わり、円滑な調整につながります。
この交渉においても、母健連絡カードに「作業の制限」といった指導を医師に記載してもらうことが極めて重要です。これにより、会社はあなたの健康を守るために人員配置を再検討する義務を負うことになります。
つわりによる休職Q&A
つわりで仕事を休むとなると、「どのくらい休めばいい?」「お金のことは?」「復帰のときはどうしよう?」など、次々と現実的な疑問が湧いてくるものです。
安心して休養に専念し、スムーズに職場復帰するためにも、特によくある3つの疑問について、あらかじめ答えを知っておきましょう。

一般的にどのくらいの期間休むことが多い?
休む期間は「他の人がどうしているか」ではなく、「ご自身の体調が回復するために必要な期間」が答えになります。
あるアンケート調査では、つわりで仕事を休んだ方のうち「1〜5日」の休みで復帰するケースが最も多いという結果が出ています。しかし、これはあくまで統計上のデータに過ぎません。
つわりの症状や重さ、続く期間には非常に大きな個人差があります。数日で落ち着く方もいれば、点滴や入院が必要な「妊娠悪阻(にんしんおそ)」という病的な状態に移行し、数週間〜数カ月の休養を要する方もいます。
大切なのは、平均と比べて一喜一憂することではなく、医師の診断とご自身の体が出すサインを最優先することです。無理な出勤は症状を悪化させ、回復を長引かせる原因にもなり得ます。医師と相談しながら、あなたにとって最適な期間、しっかりと休養をとってください。
休んでいる間の給料や社会保険料はどうなる?
休んでいる間の収入と社会保険料の扱いは、「有給休暇を使うか、欠勤・休職とするか」によって大きく変わります。
まずはお勤めの会社の就業規則を確認し、人事・総務担当者に相談するのが基本ですが、一般的なルールは下表のとおりです。
| 休み方 | 給料 | 社会保険料(健康保険・厚生年金など) |
|---|---|---|
| 有給休暇 | 支給される | いつも通り給料から天引きされる |
| 欠勤・休職 | 支給されない | 支払い義務は継続する (給料がなくても発生) |
【ポイント】なぜ給料ゼロなのに、社会保険料は払うの? 社会保険料は、実際の給料額ではなく「標準報酬月額」という区切りを基に計算されます。休職して給料がゼロになっても、この「標準報酬月額」はすぐには変わらないため、支払い義務が続くのです。
支払い方法は、「会社が立て替えて復職後に精算する」「毎月自分で会社に振り込む」など会社によって異なります。休職が長引く場合は、この社会保険料の負担が想定外の出費となることもあるため、必ず事前に確認しておきましょう。
なお、欠勤・休職で給料が支払われない場合でも、一定の条件を満たせば、加入している健康保険から給料のおおよそ3分の2が支給される「傷病手当金」を利用できます。
復帰するときの挨拶はどうすればいい?
復帰初日の挨拶は、休んだことへの罪悪感から過度に謝罪するのではなく、「感謝」と「今後の働き方についての情報共有」を伝える場と捉えましょう。
円滑な人間関係を保ち、今後の業務をスムーズに進めるために、以下の3つの要素を盛り込んで挨拶を構成することをおすすめします。
| 伝えるべき要素 | なぜ伝える必要があるのか?(目的) |
|---|---|
| 1. 感謝 | ・業務をカバーしてくれたことへの感謝を伝える ・「申し訳ありません」より「ありがとうございます」が円滑な人間関係を築く |
| 2. 簡潔なお詫び | ・不在中に迷惑や心配をかけたことに対して、ひと言触れる |
| 3. 今後の見通し | ・「まだ体調に波がある」という事実を正直に共有する ・無理のないペースで業務に戻る姿勢を見せ、周囲の過度な期待を調整する |
【挨拶の構成例】
「皆さん、おはようございます。〇〇です。
(感謝)先週は急なお休みをいただき、ありがとうございました。皆さんにご協力いただいたおかげで、体調もだいぶ落ち着きました。
(簡潔なお詫び)不在の間、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。
(今後の見通し)まだ日によって体調に波があるかもしれませんが、できることからしっかり取り組んでいきたいと思いますので、何かあればご相談させてください。
また本日から、どうぞよろしくお願いします。」
このように伝えることで、あなたの誠実な姿勢が伝わると同時に、周囲も「まだ万全ではないのだな」と理解し、配慮しやすくなります。ご自身の心身を守るためにも、正直な情報共有を心がけましょう。
まとめ
つわりで仕事を休むべきか悩んだら、水分が摂れない、体重が著しく減少したなどの客観的な基準を参考にしましょう。 つらい症状を我慢する必要はなく、休むことはご自身と赤ちゃんを守るための大切な選択です。
職場へ報告する際は、まず直属の上司に相談するのが基本です。 その際、「母性健康管理指導事項連絡カード」などの公的な書類を活用すると、休職や時短勤務といった必要な配慮を円滑に求められます。 仕事を完全に休むだけでなく、在宅勤務や業務内容の変更といったさまざまな選択肢があることも覚えておきましょう。
つらいときは一人で抱え込まず、まずはかかりつけの産婦人科医に相談し、ご自身の状態を客観的に把握することから始めてみてください。
この記事を書いた人

-
齋藤雄佑。
仙台さいとう産業医事務所、代表産業医
資格
・日本医師会認定産業医
・労働衛生コンサルタント(保健衛生)
・日本外科学会外科専門医
・健康経営エキスパートアドバイザー
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