
健康診断で高血圧と指摘された従業員への対応に、迷っていませんか。就業制限には法律で定められた一律の血圧基準がなく、現場での判断の難しさを感じている担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、労働安全衛生法における高血圧の考え方を基に、就業制限を検討する際の具体的な目安や職種別の注意点を解説します。健康診断後の対応フローや、産業医面談で押さえるべきポイントもわかります。
最後まで読むことで、会社の安全配慮義務を果たしながら従業員の健康を守るための、根拠に基づいたアクションが明確になります。あいまいだった基準が整理され、自信を持って実務に臨めるはずです。
就業制限の対象となる血圧の具体的な基準
高血圧による就業制限について、法律で定められた一律の血圧基準値はありません。これは、従業員一人ひとりの健康状態や担当業務の負荷が異なり、画一的な基準を設けることが実態にそぐわないためです。最終的な判断は、各企業の産業医が個別の状況を総合的に評価して行います。
ただし、現場での判断の目安として、企業が独自に基準を設けている場合があります。例えば、以下のような数値を就業上の配慮を検討し始めるきっかけとしているケースが見られます。
- 検討開始の目安: 収縮期血圧 160mmHg以上、または拡張期血圧 100mmHg~110mmHg以上
- 具体的な運用例: 収縮期血圧 160mmHg以上、または拡張期血圧 100mmHg以上の従業員に対し、3カ月間の就業制限を適用する
これらの数値はあくまで一例です。重要なのは、数値だけで判断するのではなく、個々の従業員の状況を丁寧に見極めることだといえます。
労働安全衛生法における高血圧の考え方
労働安全衛生法では、高血圧という診断名や血圧の数値自体を直接制限する規定はありません。法律が重視するのは、「高血圧に起因する状態で、安全な業務遂行に支障が出るかどうか」という点です。
つまり、血圧の数値だけでなく、従業員の健康状態が業務に与える影響と、業務が健康状態に与える影響の2つの側面から判断する必要があります。
事業者が就業上の措置を検討すべき具体的なケースとして、以下の2点が挙げられます。
労働能力の低下が懸念される場合 めまい、頭痛、動悸といった自覚症状により、本人の集中力や判断力が低下し、安全に業務を遂行できないおそれがある状態です。
業務による病状悪化のリスクがある場合 現在の業務を継続することで、高血圧がさらに進行したり、心臓、腎臓、血管といった臓器に合併症を引き起こしたりする可能性が高い状態を指します。
これらの状態が認められる従業員がいる場合、事業者は安全配慮義務の観点から、産業医の意見を聴取した上で、就業場所の変更、作業内容の転換、労働時間の短縮といった具体的な措置を講じることが求められます。
運転業務や高所作業など職種別の判断基準
運転業務や高所作業のように、本人の体調変化が重大な事故につながりかねない職種においても、全国で統一された就業制限の血圧基準は設けられていません。しかし、これらの業務は従業員本人だけでなく、周囲の第三者の安全にも直接関わるため、一般的な業務よりもさらに慎重な判断が求められます。
特に注意が必要な業務のリスクと判断のポイントを、下表に整理します。
| 業務の種類 | 想定されるリスク | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 運転業務 (バス、タクシー、トラック等) |
・脳卒中や心筋梗塞による突然の意識消失 ・重大な交通事故への直結 |
・自覚症状の有無 ・治療による血圧コントロール状況 |
| 高所作業 | ・血圧変動によるめまい、ふらつき ・転落事故の誘発 |
・自覚症状の有無 ・降圧薬の副作用(立ちくらみ等)の有無 |
| 肉体労働 (重量物運搬、建設作業等) |
・重い物を持ち上げる際の一時的な血圧急上昇 | ・業務の強度と頻度 ・心血管系への負荷 |
| 高ストレス業務 | ・精神的負荷による血圧上昇 | ・ストレスの程度と本人の対処能力 ・交感神経の過緊張状態 |
これらの業務に従事する従業員については、産業医が具体的な業務内容と健康状態を詳細に確認したうえで、個別に就業上の措置(深夜業の禁止、時間外労働の制限、配置転換など)の要否を判断します。
健康診断で高血圧と指摘された後の流れ
健康診断で従業員に高血圧が指摘された場合、企業は労働安全衛生法に基づき、適切な事後措置を講じる必要があります。これは、従業員の健康を守り、安全な職場環境を維持するための「安全配慮義務」を果たす上で極めて重要です。
具体的には、健診結果の判定に応じて、以下の流れで対応を進めます。
医師からの意見聴取 「要精密検査」や「要治療」といった判定が出た従業員について、まずは産業医や地域の専門医から医学的な見地からの意見を聴取します。
産業医面談の実施 医師の意見を踏まえ、必要に応じて産業医と従業員本人との面談を設定します。ここで、業務内容と健康状態の関連性を詳しく確認します。
就業上の措置の決定・実施 産業医の意見を勘案し、事業者が最終的な判断を下します。措置の内容は、時間外労働の制限や深夜業の禁止、作業内容の変更など多岐にわたります。
この一連の流れは、高血圧という診断名だけで一律に制限をかけるのではなく、従業員一人ひとりの状況に合わせた最適な働き方を模索するために行われます。

会社への報告義務と産業医面談の準備
従業員に健康診断結果の提出を法的に強制することはできません。しかし、企業の安全配慮義務を果たすためには、従業員の健康状態を正確に把握することが不可欠です。
特に高血圧は、業務内容によって症状が悪化したり、脳卒中や心筋梗塞といった重大な労働災害に直結したりする危険性をはらんでいます。
保健担当者としては、従業員が安心して自身の健康状態を共有し、産業医面談に臨めるよう、事前の準備を具体的にサポートすることが求められます。
従業員に面談の目的を丁寧に説明した上で、以下の準備を促しましょう。
| 促すべき準備 | 保健担当者が提供できるサポート例 |
|---|---|
| かかりつけ医への相談 | ・健診結果を持参し、現在の病状や治療方針について確認するよう案内する。 ・可能であれば、主治医に「就業上の配慮に関する意見書」の作成を依頼できないか相談するよう促す。 |
| 家庭血圧の記録 | ・毎日決まった時間(朝・晩など)に血圧を測定し、「血圧手帳」に記録するよう指導する。 ・血圧手帳は、一時的な緊張による血圧上昇ではないことを示す客観的なデータとして、産業医が判断する上で非常に重要であることを伝える。 |
| 自覚症状や業務上の不安の整理 | ・「いつ、どのような業務で、どんな症状(頭痛、めまい、動悸など)を感じるか」を具体的に書き出せるような簡単なメモやシートを渡す。 ・「重い荷物の運搬」「深夜勤務」など、特に負担を感じる業務を具体的に整理できるよう支援する。 |
こうした丁寧な準備が、従業員本人と会社の双方にとって、納得のいく就業配慮につながります。
産業医面談で聞かれることと伝えるべきこと
産業医面談は、従業員を評価する「査定」の場ではありません。従業員の健康状態が現在の業務に耐えうるか、また業務によって病状が悪化するリスクはないか、専門的な視点から確認し、安全に働き続けるための方法を一緒に探す場です。
保健担当者は、従業員が過度に緊張せず、自身の状況を正確に伝えられるよう、面談で主に確認される項目とその意図を事前に説明しておきましょう。
【産業医が確認する主な項目とその意図】
| 確認項目 | 質問の意図 |
|---|---|
| 治療の状況 | ・治療による血圧コントロールの可否はどうか ・降圧薬の副作用(めまい、眠気など)が、業務の安全性(特に運転や高所作業)に影響しないか |
| 血圧の推移 | ・診察室での一時的な血圧上昇(白衣高血圧)ではなく、日常的な血圧の状態(家庭血圧)を把握するため |
| 生活習慣 | ・食事、運動、睡眠、喫煙、飲酒の状況から、血圧に影響する因子を特定し、今後の保健指導の方向性を探るため |
| 自覚症状 | ・頭痛、めまい、動悸などの症状が、業務の遂行能力や安全性にどう影響するかを判断するため |
| 業務内容と負荷 | ・具体的な作業内容、時間外労働や深夜業の状況、ストレスの程度が、血圧にどのような影響を与えているかを評価するため |
これらの質問に対し、従業員が的確に情報を伝えられるよう、保健担当者としてサポートすることが重要です。特に、以下の2種類の情報を整理して面談に臨むよう促しましょう。
客観的な情報(事実)
- かかりつけ医の診断内容や指示が書かれたメモ
- 毎日記録した血圧手帳
- 服用している薬がわかるお薬手帳
具体的な業務上の影響と本人の希望(事実+主観)
- 「階段を上ると息切れがする」「重いものを持つと動悸がする」といった、業務と症状の具体的な関連性
- 治療や生活習慣の改善に前向きであること
- 安全に働き続けるために、どのような配慮を希望するか(例:重量物運搬の免除、時間外労働の制限など)
これらの情報を基に、産業医は就業制限(時間外労働の制限、深夜業の禁止、作業転換など)の要否について意見をまとめ、事業者はその意見を尊重して最終的な措置を決定します。
就業制限を回避・解除するための具体的な行動
就業制限は、従業員の健康と職場の安全を守るための予防策です。保健担当者の役割は、この措置が発動されるのを回避したり、既に適用されている場合は解除したりするために、従業員が主体的に健康管理へ取り組めるよう具体的な道筋を示すことにあります。
就業制限の回避・解除に向けたアクションは、大きく分けて「治療の開始」と「生活習慣の改善」の2つです。
保健担当者は、この2つの柱を軸に、従業員本人、主治医、産業医、そして現場の上長をつなぐハブとしての役割を担います。
制限解除の最終的な判断は、治療によって血圧が安定したことを示す主治医の診断書や家庭血圧の記録を基に、産業医が「安全に就業可能」と判断することで行われるのが一般的な流れです。
医師に相談し治療を開始するタイミング
健康診断で「要精密検査」や「要治療」の判定が出た従業員には、速やかな受診を促すことが保健担当者の最初の重要なアクションです。
高血圧は自覚症状がないまま進行するため、従業員自身が受診の必要性を感じていないケースも少なくありません。その際に、ただ「病院へ行ってください」と伝えるだけでは、なかなか行動にはつながりにくいのが実情です。
受診勧奨の面談では、従業員本人の抵抗感を和らげ、当事者意識を持たせるために、以下の3つのステップで伝えることが効果的です。
| 伝えるステップ | 具体的な伝え方のポイント(保健担当者向け) |
|---|---|
| 1. 会社の姿勢を示す | ・「評価や査定のためではなく、あなたの健康を会社として純粋に心配している」というメッセージを明確に伝える。 ・安全配慮義務の観点から、会社には従業員の健康を守る責任があることを説明し、受診勧奨がその一環であることを理解してもらう。 |
| 2. “今”治療するメリットを伝える | ・「今の段階で治療を始めれば、薬を使わずに済む可能性や、ごく少量の薬でコントロールできる可能性が高いです」 ・「血圧が安定すれば、就業制限をかけずに今の仕事を続けられます」など、本人にとっての具体的なメリットを提示する。 |
| 3. 放置するリスクを”自分ごと”にさせる | ・単に「脳卒中になります」と伝えるのではなく、「運転業務中に意識を失ったら」「高所作業中にめまいがしたら」と、現在の業務内容と結びつけてリスクを具体的にイメージさせる。 ・特に、収縮期血圧が160mmHg以上、または拡張期血圧が100mmHg以上に該当する場合は、脳・心血管疾患のリスクが著しく高まることを伝え、緊急性の高さを認識してもらう。 |
職場での負担を減らす生活習慣の改善策
従業員の生活習慣改善は、本人の努力だけに頼るのではなく、企業側が「健康的に働きやすい環境」を主体的に整備することで、その効果を最大化できます。これは企業の安全配慮義務の一環でもあります。
保健担当者は、産業医や現場の上長と連携しながら、以下のような職場環境の改善策を推進する役割を担います。
| 改善策のカテゴリー | 保健担当者が推進すべき具体的なアクション例 |
|---|---|
| 労働時間・負荷の管理 | ・勤怠データから月間の時間外労働が一定時間を超える従業員をリストアップし、上長へ状況確認と業務分担の調整を依頼する。 ・深夜業や交代勤務が血圧に与える影響について情報提供を行い、産業医の意見書を基に、該当従業員の勤務シフトの配慮を人事部門に要請する。 |
| 業務内容の調整 | ・特に血圧上昇リスクの高い「重量物運搬」や「高所作業」について、該当部署の業務内容をヒアリングする。 ・産業医の「作業転換」や「就業場所の変更」といった意見書が出た場合、本人と上長の間に入り、具体的な代替業務や人員配置について調整役を担う。 |
| ストレス管理の支援 | ・ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された部署や個人に対して、産業医・保健師面談を積極的に設定する。 ・面談を「義務」ではなく「権利」として周知し、相談しやすい雰囲気づくりを心がける。(例:相談内容の守秘義務をポスターなどで明示) |
| 健康意識向上の仕掛け | ・社員食堂と連携し、「減塩メニュー」や「血圧に優しい定食」を企画・提供する。 ・休憩時間にできるオンライン・ストレッチ講座などを企画し、運動習慣のきっかけをつくる。 ・保健指導の場で、画一的な指導ではなく、その従業員の勤務形態や業務内容に合わせた、実現可能な改善プランを一緒に立案する。 |
休職や解雇の可能性と知っておくべき法的知識
高血圧を理由とした従業員の休職や解雇は、企業が講じるべき配慮義務を果たした上で、最終手段として慎重に判断されるべき事柄です。高血圧という診断名だけで、直ちに休職や解雇を命じることは法的に認められていません。
根拠となる労働安全衛生法第68条の「病者の就業禁止」は、あくまで従業員の生命と健康を守り、病状の悪化を防ぐための保護的な措置です。
したがって、企業としてはまず、業務の軽減や配置転換といった、従業員が安全に働き続けられる方法を模索する義務があります。

会社の安全配慮義務と労働者の権利
会社と労働者の間には労働契約があり、会社は労働契約法第5条に基づき、従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負っています。一方で、従業員は自身の健康を維持し、必要な情報を会社に提供する「自己保健義務」を負っており、両者は互いに協力し合う関係にあります。
保健担当者は、この義務と権利のバランスを保つための重要な調整役を担います。
企業が具体的に果たすべき安全配慮義務には、主に以下のものが挙げられます。
- 健康状態の的確な把握 健康診断結果や、従業員からの申告に基づき、健康状態を正確に把握する。
- 専門家(産業医等)からの意見聴取 把握した情報をもとに、産業医などから医学的な見地からの意見を聴く。
- 適切な就業上の措置の実施 産業医の意見を参考に、時間外労働の制限、深夜業の免除、作業内容の変更、配置転換といった具体的な措置を検討・実行する。
これらの義務を果たすためには、従業員からの正確な健康情報の提供が不可欠です。保健担当者としては、従業員が安心して情報を開示できるよう、面談の目的が「不利益な処分のためではなく、安全に働き続けるための方法を一緒に探すこと」であると丁寧に説明し、信頼関係を築くことが求められます。
会社に提出する診断書に記載してもらう内容
従業員の就業上の配慮を適切に判断するためには、主治医による客観的かつ具体的な医学的見解が記載された診断書が不可欠です。
「要加療」「自宅安静」といった抽象的な表現のみの診断書では、会社として具体的な配慮義務を果たすことが困難です。保健担当者は、従業員を通じて主治医に、労務管理上必要な情報の提供を依頼する必要があります。
診断書で特に確認・記載を依頼すべき項目と、その目的を下表に整理します。
| 確認すべき項目 | 記載を依頼する目的(なぜその情報が必要か) |
|---|---|
| 傷病名と現在の状態 | ・正確な診断名 ・現在の血圧値(診察室血圧・家庭血圧) ・頭痛、めまい、動悸などの自覚症状の有無と程度 |
| 治療計画と見通し | ・具体的な治療内容(薬物療法、食事・運動療法など) ・治療による今後の病状の見通し ・治癒または症状固定までに見込まれる期間 |
| 就業に関する具体的な意見 | 【これが最も重要】 ・就業制限の要否:「通常勤務可能」「一部制限のもと就労可能」「就労不可」など ・制限すべき業務内容:「運転業務」「高所作業」「重量物運搬」「深夜業」「時間外労働(月〇時間まで)」など、可否を具体的に明記 ・必要な配慮事項: 休憩時間の確保、業務負荷の軽減など ・制限・配慮が必要な期間:「診断日より〇カ月間」など |
これらの情報が網羅された診断書は、会社が適切な安全配慮義務を果たす上で極めて重要な根拠となります。情報が不十分な場合は、従業員の同意を得た上で、産業医から主治医へ直接情報提供を依頼することも選択肢の一つです。
まとめ
高血圧による就業制限に、法律で定められた一律の血圧基準はありません。最終的な判断は、産業医が従業員一人ひとりの健康状態や業務内容を総合的に評価して行います。
大切なのは数値だけで判断するのではなく、主治医や産業医の意見を基に、会社と従業員が協力し合う姿勢です。業務内容や健康状態を正しく共有し、安全に働き続けるための最適な方法を一緒に探すことが、双方にとっての安心につながります。
健康診断で高血圧を指摘された際は、一人で抱え込まず、まずはかかりつけ医や会社の産業医へご相談ください。
この記事を書いた人

-
齋藤雄佑。
仙台さいとう産業医事務所、代表産業医
資格
・日本医師会認定産業医
・労働衛生コンサルタント(保健衛生)
・日本外科学会外科専門医
・健康経営エキスパートアドバイザー
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